| 小児の外傷 |
発育途上の小児の骨格はおとなにはない独特の構造と特性が備わっています。
従って小児期の骨格に対する外傷を扱う上でおとなと同じように考えると手痛いしっぺ返しを食うことがあります。
ここでは小児特有のいくつかの外傷についてお話をします。
1.肘内障
幼児期の上肢の外傷の中でもよく見られるものの1つに肘内障があります。誰かがこどもの手を強く引っ張ったり、遊んでいるうちに肘がからだの下敷きになって起こることが多いようです。
原因は肘のあたりにあります。橈骨の頸部は輪状靭帯という靱帯で首輪を巻かれたようにして支えられていますが、幼児期は橈骨頭の形が平坦なため首輪がするりと抜けそうになることがあるのです。
受傷直後からまるで上肢全体が麻痺を起こしたかのように、患側は肩・肘・手のすべてを動かそうとしません。激しく痛がりますが、その痛みの部位もはっきりとはしませんが、手のあたりを痛がることが多いです。そのため痛みの原因がどこにあるのかわからず、親は大変動揺します。救急疾患の専門家の救急隊ですら、「こどもが肩を脱臼したようです」という報告をして搬送してくることがあるくらいです。(実は幼児で肩関節の脱臼は極めて稀です)
診断は受傷の様子を詳しく聴取し、上肢の動かし方や腫れの有無(肘内障では腫れません)などを注意深く観察すれば極めて容易です。通常X線検査も不要ですが、時に鎖骨や肘関節周囲、あるいは手関節周囲の骨折を疑わなければならない場合もありますので、このような場合にはX線検査を行い、骨折を見逃さないようにしなければなりません。
診断が確定すれば治療は容易です。受傷後早期であれば麻酔なしで徒手的に整復が可能で、しかも整復操作直後にまったく問題なく上肢を動かすようになります。時に、受傷後かなり時間が経ってから(場合によっては翌日など)来院されることがありますが、このような場合、整復されてもこどもはしばらく上肢を動かしてくれないことが多く、厳重に経過観察します。
肘内障を何度か繰り返し起こすこどももいますが、通常年齢が高くなり橈骨頭がしっかり発育するにつれて肘内障を起こさなくなります。

2.
上腕骨顆上骨折
小児の上肢の骨折で最もよく見られる骨折に上腕骨顆上骨折があります。小児が転倒あるいは転落をして肘を伸ばした状態で手を突いて受傷することが多いです。
わたしはこの骨折について『整形外科看護』という医学雑誌の第11巻3号(2006年3月25日発行)に詳しい解説を掲載しましたので、その全文を御紹介します。 |
| 上腕骨顆上骨折 |
| 【疾患の概念】 |
小児の肘関節周囲の骨折はすべての小児骨折の8-12%を占める、とても頻度の高い外傷です。その中でも上腕骨顆上骨折は小児のすべての肘関節周囲の骨折の75%を占めるもっとも頻度の高い骨折です。そのため、ほとんどの病院で年間数例は必ず経験する疾患です。診断は単純X線像のみで明らかであり、早期に正しく整復すれば、すみやかに骨癒合します。
この骨折は上腕骨外顆骨折や内顆骨折(これはとても稀な骨折です)などと異なり、関節内骨折でもなく、小児特有の骨端離解(成長軟骨板にかかる骨折)でもありません。しかしながら、この骨折は決して軽視してはいけない外傷です。その病態生理や合併症に対する十分な知識がないと、フォルクマン拘縮による手の機能の損失や内反肘変形の残存などの問題を残すこともあり、注意が必要だからです。
本稿では上腕骨顆上骨折について是非知っておくべき知識について述べたいと思います。 |
| 【病態生理】 |
上腕骨顆上骨折は、こどもが転倒や転落した際に腕を伸ばして手を突くことで、肘に急激な伸展力が加わって起ります。従って95%の例で遠位骨片は後方(すなわち伸展の方向)に転位しています。
なぜ、肘に伸展力が加わった際に多くの場合顆上部で骨折が起るのでしょうか。
それは上腕骨遠位部の骨の形態を見ればよく理解できます。上腕骨遠位部の前方の鈎状突起窩(coronoid fossa)と後方の肘頭窩(olecranon fossa)に挟まれたとても骨が薄くなっている部位があります。内顆と外顆はこのレベルで幅の狭い骨の柱のようになっており、その柱を薄い骨が連結しているわけです。従って、そもそも構造的に弱いところなのですが、それに加えて、肘関節に強い伸展力が加わりますと、肘頭が肘頭窩にめり込むようにして、同部に非常に強いストレスが加わります。そのため顆上骨折で骨折を起こす部位はほとんど同じですが、加わった外力の違いや元々の骨の強度の違いなどで、骨折の転位の程度は異なります。
骨折の転位の程度は治療法の決定や予後の予測に非常に重要な要素ですので、今までに多くの分類が提唱されてきました。最もよく用いられているのはGartlandの分類で、著者もこの分類を好んで用いています。
<Gartlandの分類>
タイプT 転位が全くないか、ごく軽度のもの
タイプU 折れ曲がっているが、一部の骨皮質に連続性が残っているもの
タイプV 完全に転位してしまっているもの
治療は一般的に転位の程度と合併損傷の状態を総合的に判断して決定します。 |
| 【合併損傷】 |
| 上腕骨顆上骨折に伴う合併損傷としては、神経損傷、血管損傷、他の部位の骨折(同側の前腕骨骨折など)が重要です。神経麻痺の発生頻度は約15%といわれていますが、この麻痺はしばしば一過性のものであり、多くは4か月以内には自然回復します。後内側に転位した骨折では正中神経麻痺が、後外側に転位した骨折では橈骨神経麻痺が多いようです。 |
| 【治療】 |
治療を始める前に神経損傷や循環障害に対する十分な評価が必須です。
治療方法は大きくわけて、非観血的整復、非観血的整復+ピンニング、観血的整復があります。整復を行なう前に牽引が行なわれていた時代もありましたが、牽引治療は長期の入院が必要となるだけでなく、直ちに整復を行なうことに比べて優れている点がなく、現在ほとんど行なわれていません。腫れが引いてからでないと手術ができない、あるいはやりにくいという理由で牽引が行なわれるとすればそれは意味がありません。なぜなら腫れている状態でも手術は全く問題なく可能であり、整復して固定することですみやかに腫れは消退するからです。牽引していても意外と腫れが引かないどころか、牽引中は更衣などのケアも大変で患児の疼痛やストレスが強いことは、看護師のみなさんはしばしば経験されていると思います。
それでは一般的な治療方針をさきほど紹介したGartlandの分類ごとに述べます。
−タイプT−
ほとんど転位がない骨折は上腕から手までのギプス固定を3〜4週間行なうことで問題なく治癒します。しかし、内側の骨幹端部が粉砕されている例は注意が必要です。内反肘が残ってしまうことが多いからです。通常この粉砕はわかりにくいことが多く、診断上の盲点です。両側のBaumann角(上腕骨外顆部の骨端線に沿う線と、上腕骨長軸に垂直な線のなす角)を比較して、10度以上の差があれば整復してピンニングを行ないます。ピンニングを行なわないと、ギプス内でしばしば再転位し、残った変形は決して自家矯正されません。
−タイプU−
このタイプの骨折はほとんどの場合伸展型の骨折で、後方の皮質の連続性がある程度残っているために、非観血的に簡単に整復することができます。しかしながら、正しい整復位を保持するためには肘関節を120度位屈曲した肢位での固定が必要な場合が多いのです。骨折後の腫れの強い肘関節を120度も屈曲した状態で保持すると高率で肘関節より遠位部での循環障害を起こしますので、この肢位はよくありません。タイプIIでは良肢位での固定(肘関節90度屈曲)をしつつ正しい整復位を保持するためにはキルシュナー鋼線による経皮的ピンニングが必要となることが多くなります。通常、4週間くらいで良好な骨癒合が得られ、抜釘が可能となります。
−タイプV−
骨片同士が完全に離れてしまっている骨折です。この骨折では受傷時の外力も大きく、骨以外の軟部組織の損傷も高度です。従って、まず神経損傷や循環障害の有無や程度の評価を行なうことが非常に重要となります。骨折の治療は通常、非観血的整復と経皮的ピンニングです。整復はタイプIIほど簡単ではなく、全身麻酔により筋緊張を十分に取っておくことが望ましいと考えています。整復には円柱形のX線透過性のバーに肘を掛けて屈曲力と牽引力を同時にかけながら整復しています。
このタイプの骨折に、徒手整復とギプス固定のみを行なった場合、内反肘などの遺残変形を残す可能性が圧倒的に高くなります。また、早期にピンニングを行なった場合に比較してフォルクマン疎血性拘縮を起こすリスクが高くなるといわれています。これは90度以上の肘屈曲位でギプス固定してしまうことが原因であろうと考えられています。
整復困難な骨折に対して観血的整復術が行なわれることがありますが、これは極めて稀なことです。
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| 【合併症】 |
骨折後に脈が触れなくなっていても、骨折を直ちに整復することによって通常は循環障害が解消します。骨折整復後も脈が触れず、手が白く、退色反応もないような場合、フォルクマン疎血性拘縮の危険性がありますので前方侵入により神経血管束の確認が必要です。ただし、脈が触れなくても手がピンク色で退色反応も良好であれば、必ずしも手術による神経血管束の確認は必要ありません。
上腕骨顆上骨折後の神経麻痺は、骨折を正しく整復すればほとんどが自然に回復し、手術の必要はありません。ただし、骨折がどうしても正しく整復されない場合、神経が骨折部にかみ込んでいる場合があり、手術による整復が必要です。
上腕骨顆上骨折に伴う神経麻痺はほとんどが正中神経麻痺か橈骨神経麻痺です。尺骨神経麻痺は内側から打ったピンによる医原性の麻痺であることが多く、ピンの抜去が必要です。この合併症を予防するため、著者らは内側からのピンはできるだけ打たないようにして、外側からの複数のピンによる固定を好んで行なっています。
上腕骨顆上骨折の後遺症として最も多く見られるのが内反肘変形です。これは程度が軽い場合は整容上の問題だけで必ずしも治療の対象にならないこともありますが、程度が強いと上腕骨外顆骨折をきたすリスクが高くなったり、遅発性の尺骨神経麻痺をおこすこともあるという報告があり、注意が必要です。内反肘変形の原因は整復不良、あるいはギプス内転位による変形治癒であり、成長障害ではありません。従って成長に伴って角度が変わることはほとんどありませんので、矯正骨切り手術はいつ行なってもかまいません。時々、成長終了まで待ってから矯正した方が良いという意見がありますが、それは成長軟骨の障害による変形と勘違いしていることからくる誤解です。著者らの経験では10歳までに顆上部での楔状骨切り術を行なうと、成長によるリモデリングにより非常に綺麗に治ります。しかし、内反肘変形は治療よりも予防(このような変形を起こさないように治療すること)が重要であることは言うまでもありません。
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【参考文献】
1) Price CT et. al: Management of Fractures. In Lovell and Winter’s Pediatric Orthopaedics 5th ed., Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 1339-1344, 2000.
2) 瀬戸洋一:小児上腕骨遠位部骨折の問題点.整形外科56:1511-1519、2005. |